大判例

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大阪高等裁判所 平成4年(ネ)943号 判決

控訴人

株式会社ロイアル人材情報センターこと

ロイアル製薬株式会社

右代表者代表取締役

村上公三

右訴訟代理人弁護士

中村泰雄

被控訴人

谷口勝枝

藤井春美

谷口香苗

右三名訴訟代理人弁護士

野村克則

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人らの請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

一当事者の求めた裁判

1  控訴人

主文同旨

2  被控訴人ら

(一)  本件控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人の負担とする。

二事案の概要

本件の事案の概要(但し、再々抗弁を除く)は、次に訂正付加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二枚目表一〇行目の「本件契約二に基づく債務を本件債務甲」と、同末行から同二枚目裏一行目にかけての「本件契約三に基づく債務を本件債務乙」とをいずれも削り、同三枚目表六行目の「本件債務甲および乙」を「本件契約二に基づく債務」と、同枚目裏六行目の「本件債務甲」を「本件契約二に基づく訴外近藤の債務」と、同一一行目「本件債務乙」を「本件契約二に基づく債務」と各改める。

2  本件契約二に基づく債務の内容は、控訴人は、昭和四八年一〇月二九日、金二〇〇〇万円を出捐するに際し、うち一〇〇〇万円を訴外近藤に、うち一〇〇〇万円を被控訴人谷口勝枝に交付し、同被控訴人は合計一〇〇〇万円の約束手形(二通)を振り出したから、右二〇〇〇万円の債務は被控訴人谷口勝枝と訴外近藤の連帯債務である。

仮にそうでないとしても、金一〇〇〇万円については、被控訴人谷口勝枝は主たる債務者であり、本件契約一の債務者が訴外近藤ということで、債務者の表示が異なっているが、右程度の相違であれば根抵当権の効力は左右されないというべきである。

3  再々抗弁

(一)  控訴人は、訴外近藤の本件契約二に基づく債務について、昭和四九年一一月頃、同人所有の動産を差し押えて、時効を中断した。

(二)  控訴人は、被控訴人谷口勝枝及び同藤井春美の本件契約三(本件契約一の債務者を追加変更する旨の合意を含む)に基づく債務について、昭和四九年一一月頃、右被控訴人ら所有の各動産を差し押えて(大阪地方裁判所堺支部昭和四九年(執イ)第一一九八号、同第一一九九号)、時効を中断した(なお、右差押えの効力は今も続いている。)。

(三)  訴外近藤は、控訴人に対し、本件契約二に基づく債務につき、本件契約三の公正証書に基づき、昭和五〇年一月二一日、一部弁済し(〈書証番号略〉)、昭和五四年一一月一〇日、債務承認をし(〈書証番号略〉)、昭和五九年一〇月一一日、一部弁済をし(〈書証番号略〉)、昭和六〇年一月二一日、一部弁済をし(〈書証番号略〉、平成元年一二月二一日、一部弁済をした(〈書証番号略〉)。

右の一部弁済等により、債務承認があったので、訴外近藤の右債務は時効が中断し、または、訴外近藤は控訴人に対し、時効の利益並びに援用権を放棄した。

よって本件時効は完成していない。

三当裁判所の判断

1  請求原因(本件土地の所有関係と本件各登記の存在)、抗弁(本件契約一ないし三及び本件各予約の成立等)、再抗弁(本件契約一の被担保債権の消滅時効等)に関する当裁判所の認定・判断は、次に訂正、付加するほかは、原判決第三、一、二及び三1、2に説示のとおりであるから、これを引用する。

(一)  原判決五枚目表四行目の「本件債務甲」を「訴外近藤の本件契約二に基づく債務」と、同五行目の「本件債務甲」と同七行目の「本件債務乙」を、いずれも「訴外近藤の右債務(本件契約一の被担保債権)」と各改める。

(二)  控訴人は、被控訴人谷口勝枝が本件契約一の被担保債権の連帯債務者ないし債権の一部については主たる債務者であると主張する。

しかしながら、原審における控訴人代表者及び被控訴人谷口勝枝各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人谷口香苗は昭和二九年五月生まれで、本件契約一及び二締結当時未成年であったため、被控訴人谷口勝枝が債務を負担し、同谷口香苗が担保を提供することは、親権者と子との利益相反行為になるため、特別代理人の選任等の手続を必要とする事情から、依頼を受けた司法書士森から手続内容についてくどいほどの説明を受け、債務者を訴外近藤とし、担保提供者を被控訴人らとすることで、本件契約一及び二の内容の合意をするに至ったことが認められるから、控訴人の右主張は採用できない。

なお、本件契約三により、被控訴人谷口勝枝について、本件契約一の被担保債権の債務者とすることができないことは、原判決説示のとおりであるが、付言すると、本件契約三を合意したとされる公正証書作成のために使用された被控訴人谷口勝枝らの印鑑証明書は、本件契約一及び二締結の際、控訴人側に渡されたものであり、公正証書作成の際、改めて合意の内容を話し合ったことはないこと、本件契約三締結時においても、被控訴人谷口勝枝と同谷口香苗との利益相反の関係は解消していなかったこと、本件契約三の証とされる公正証書が債務承認並びにその履行に関する契約の公正証書であって、被控訴人谷口勝枝の持分上の担保権について被担保債権を追加するような内容の記載もないことなどの点を考慮すると、本件契約一及び二の債務者は、訴外近藤だけであるといわざるを得ない。

2  再々抗弁(時効の中断等)

(一)  差押えによる時効中断

(1) 控訴人は、訴外近藤の本件契約二に基づく債務について、本件契約三の公正証書に基づき、昭和四九年一一月頃、同人所有の動産を差し押えた旨主張するが、右主張に副う控訴人代表者の原審及び当審における供述はたやすく信用できず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

(2) 控訴人は、被控訴人谷口勝枝及び同藤井春美の本件契約三に基づく債務について、昭和四九年一一月頃右被控訴人ら所有の各動産を差し押えた旨主張する。

しかしながら、前示のとおり、本件契約一の債務者は訴外近藤のみであり、被控訴人谷口勝枝及び同藤井春美らが本件契約一の債務者であるとは認められないのであるから、控訴人が、同被控訴人らの動産を差し押えたからといって、本件契約一の被担保債権(本件契約二に基づく訴外近藤の債務)につき時効中断の効果を生ずるものではないことが明らかであり、また、右差押えについて、訴外近藤に通知(民法一五五条参照)した旨の主張・立証もない本件においては、控訴人の右主張は理由がない。

(二)  債務承認等による時効中断

(1) 証拠(〈書証番号略〉、原審及び当審における控訴人代表者)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

① 訴外近藤は、本件契約二に基づく訴外近藤の二〇〇〇万円の貸金債務につき、控訴人に対し、昭和五〇年一月二一日、利息の一部として二万円を支払い、② 昭和五四年一一月二〇日、元金内金として二〇万円を支払ったうえ、未払い残元金が一九八〇万円である旨を承認し、その旨の確認書を差し入れ、③ 昭和五九年一〇月一一日、利息として一二万円を支払い、④ 昭和六〇年一月二一日、右債務の内金として二万円を支払い、⑤ 平成元年一二月二一日、利息の一部として三万円を支払ったこと、⑥ その後、訴外近藤からの支払いがないので、控訴人は、平成元年一一月九日、訴外近藤に対し、右貸金残金一九八〇万円の支払いを求めて、大阪地方裁判所に貸金請求の訴えを提起し(同庁平成元年(ワ)第九一二三号)、平成二年七月一八日、控訴人勝訴の判決が言い渡されたこと、以上の事実が認められる。

(2) 右認定の事実によれば、本件契約二に基づく訴外近藤の債務(本件契約一の被担保債権)は、弁済期である昭和四九年四月九日から商事時効期間の五年を経過するまでの間に、利息の一部を支払うことにより、時効中断の事由としての承認(民法一四七条三号)がなされたことが明らかであり、そして、その後も、一連の元金の一部及び利息の支払い等により承認の効果が維持されているので、消滅時効は完成していないものというべきである。

(3) ところで、時効中断の効力が及ぶ人的範囲の問題として、債務者の債権者に対する債務承認によって被担保債権の時効が中断しても、物上保証人に及ばないという見解も見受けられる。しかし、法は、時効の中断に関し、いかなる権利について進行していた時効を中断するかを前提として、その中断の効果が中断事由が生じた当事者の間で進行していた時効についてだけ生じ、その効果が当事者及びその承継人の間に限られることを規定している(民法一四八条)と解すべきである。

物上保証人の場合、債権者との関係では、債権・債務の関係はなく、単に被担保債権について物的責任を負っているに過ぎない。したがって、債権の消滅時効の関係では、もともと時効にかかる権利関係についての当事者ではなく、時効中断の効力が及ぶ人的範囲の対象外の者として、そもそも同法条が適用される余地のない者というべきである。

このように考えることは、担保権に附従性があることからも理解できるし、抵当権に関し、抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その被担保債権と同時でなければ(被担保債権について時効中断を繰り返している限り、被担保債権は消滅しない)、時効によって消滅しないとの規定(民法三九六条)からも明らかである。

(4) そうすると、本件の担保権の被担保債権は、債務者近藤の承認によって時効が中断されたと認められるから、控訴人の再々抗弁は理由がある。

四結語

以上の次第で、本件土地所有権に基づき、本件土地に関する本件登記一ないし三の抹消登記手続を求める被控訴人らの請求は理由がないから、これを棄却すべきである。

よって、本訴請求を認容した原判決は不当であるから、原判決を取り消して被控訴人らの本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官志水義文 裁判官高橋史朗 裁判官松村雅司)

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